ピアノの調を意識していますか?演奏表現にもつながる調性について解説!

 

ハ長調、イ長調、変ホ短調など、音楽のほとんどには調性があります。

 

「ハ長調は♯も♭もつかないから、弾きやすいよね」

 

「#4つもあって、譜読みがたいへん。で、何調だっけ?」

 

など、調性を意識せずに弾いていませんか?

 

実際、楽譜さえあれば、何調かわかっていなくてもピアノは弾けてしまうのです。

 

でも、やはり調って気になります。

 

調を理解して演奏すると、音色や表現の幅が広がりますよ

 

また、調性がわかると、練習の効率もあがります

 

この記事では、調性について、音楽理論とは別の視点から解説します

 

調を意識すると、ピアノ演奏がより音楽的になりますよ。

 

ぜひ、最後までお読みください。

 

  • 音楽で調が大事なわけ
  • ピアノの場合の調性
  • 各調の性格や名曲

 

調はどうして必要?

 

ほとんどの音楽には調性があります。

 

ピアノのレッスンでも、独学で勉強されている方も、~長調や~短調という言葉はよく聞きますよね。

 

しかし、調って何なのか考えたことはありますか?

 

調とは

調とは、楽典的に説明すると次のようになります。

 

「調(キー=key)」とは、基準になる音を第1音(主音)とする音階でできた曲のこと。

「ハ(C)」が主音の長音階でできた曲を「ハ長調(C major key)」といいます。
一般には音階と同じ意味に使っています。

引用:ピアノの楽典

 

少し難しいので、もう少し身近な視点からご説明します。

 

クラシックでは調といいますが、ポップスやジャズでは、キーといいます

 

カラオケで、自分の音域に合わせて上げたり下げたり調節する、あのキーです。

 

読者様は、日常生活の中で何気なく歌うとき、何調にしようと考えますか?

 

考えないで歌う方が多いでしょう。

 

しかし、私たちは自然に声の出やすい調を選んで歌っているのです。

 

楽器も同じです。

 

楽器は人間より広い音域を持っていますが、一番よく鳴る音域があります

 

作曲家は、楽器の出しやすい音を考え、どの音ではじめるか、どの調にするかを決めるのです

 

歴史的な背景からみた調性

クラッシックの曲には、次のように題名に調性がついている曲があります。

 

  • ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」 ハ短調
  • モーツァルト ピアノ・ソナタ ハ長調 K545 第一楽章
  • ショパン ワルツ第1番 変ホ長調

 

「曲名に、あえて調性を入れる必要あるの?」と、ふと思ったことはありませんか?

 

モーツァルトやベートーヴェンの時代の楽器は、現在ほど自由自在に、どんな音でも出すことができませんでした。

 

最初にチューニングを決めないと音が出せない楽器もあったため、まず調を決め、その調を出せる楽器を集めたのです。

 

そのような背景から、楽曲に調性が記されるようになったといわれています。

 

また、それぞれの楽器には、得意な調と苦手な調があります。

 

例えば、弦楽器は#系、管楽器は♭系が鳴りやすい調性。

 

調性が作品名に書かれるのは、楽器の性格を引き出す重要な要素だからです。

 

調性は、曲のキャラクターを決定づける要といっていいでしょう。

 

ピアノにおいての調性

 

では、ピアノにも得意な調と苦手な調があるのでしょうか。

 

ピアノは何調が得意?

ピアノは、どんな調性でも弾きこなせる万能楽器ですが、基本的にはハ長調でできています。

 

「ド」からそのまま白鍵だけを弾くとハ長調の音楽になりますね。

 

ピアノにとっては、ハ長調がもっともシンプルで簡単に鳴る、基本の調性ということになります。

 

しかし、ハ長調の音階は、意外と弾きにくいと感じたことはありませんか?

 

手の指は弧を描いているため、親指と小指で白鍵を弾いた場合、人差し指、中指、薬指は自然と黒鍵の上に乗ります。

 

実は、白鍵だけより黒鍵を含む調の方が、楽に弾けるのです。

 

ピアノの調性は弾きやすさもポイント

このような点から、ピアノは黒鍵(#や♭)の多い調の方が、難しいテクニックも弾きやすいといえます。

 

ショパンは調号だらけの曲を書いていますね。

 

特に変イ長調(♭4つ)を好んだといわれています。

 

譜読みはたいへんですが、手にとっては意外と弾きやすいのです。

 

もっとわかりやすい例では、「ネコふんじゃった」。

 

この曲は、変ト長調なので、なんと♭が6つもつきます!

 

楽譜にすると難しいけれど、弾くのは簡単ですね。

 

調号が多い曲だから難しいとは限らないのです。

 

ピアノ演奏に調の知識って必要?

 

調の重要性はわかるけど、ピアノを弾くために調を理解する必要はあるのでしょうか?

 

「楽譜を見て弾くと調性通りになるから、問題ないのでは?」

 

たしかに、調がわからなくてもピアノは弾けます。

 

しかし、調を理解すると、読者様の演奏はもっと素晴らしくなりますよ。

 

どんないい点があるのか見ていきましょう。

 

曲の表現がしやすくなる

調は、曲の雰囲気やイメージを左右する重要な要素です。

 

ジャジャジャジャーーン!!

 

でおなじみ、ベートーヴェン「交響曲 第5番 ハ短調 《運命》」。

 

ハ短調は、荘重な悲劇を表現できる、極めて個性の強い調のひとつです。

 

ダイナミックで強烈な怒りも感じさせます。

 

この曲は、イ短調でもよかったのでしょうか。

 

いいえ、運命はハ短調で扉を叩いたのでしょう。

 

同じハ短調のピアノ曲にショパンのエチュード「革命」があります。

 

この曲も叩きつけるような感情が伝わってきますね。

 

調性を意識すると、音色や演奏表現がぐんと豊かになりますよ。

 

練習がスムーズになる

クラシックピアノの学習者は、どんな上級者でも譜読みから逃れることはできません。

 

調号の多い曲を、譜読みで挫折してしまった経験はありませんか?

 

調が理解できると、使う音が想像できるので譜読みがしやすくなりますよ。

 

また、曲の構成がわかったり、和声の響きを感じられるようになります。

 

深く曲を理解することで、ピアノの上達につながるでしょう。

 

調を調べる方法

ピアノの楽譜をみると、はじめに調号が書いてあります。

 

そこから何調か判断できるのですが、すぐにわからない場合も多いのではないでしょうか。

 

調号から調性を調べるには「五度圏」が便利ですよ。

 

 

下の図をご覧ください。

 

円の外側(青文字)が長調、内側(赤文字)が短調を示しています。

 

例えば、「♭3つは何調だっけ?」と思ったとき、長調なら変ホ長調だとわかります。

 

短調の場合は、ハ短調ですね。

 

引用:Wikipedia

 

「五度圏」は、完全5度おきに並んでいるというルールがあり、作曲や即興にも役立ちます。

 

興味のある方は活用してみてください。

 

ピアノ曲と調の性格

 

調には、それぞれ性格や色があるといわれています

 

「長調=明るい」 「短調=暗い」

 

この2つの違いはわかる方も多いと思いますが、ハ長調やト長調でも性格に違いがあるのです。

 

おもしろいですね、どのような違いなのでしょう。

 

ということで次に、各調の特徴や印象、また調を代表する曲についてご紹介します。

 

印象や色の感じ方には個人差がありますので、ある人が「白」だと思っても、「赤」と感じる人もいます。

 

正解はありませんので、ご自身の感じ方と比べてみてくださいね。

 

調を代表する曲は、ピアノ曲を中心に選びました。

 

ピアノでは、調号の多い調に名曲が多いのも注目したい点です。

 

長調

長調は、「もっとも濁りのない響き」を追求してたどり着いた音階です。

 

明るさ、楽しさ、解放感のようなイメージがあります。

 

調と調号 特徴・印象 色彩 曲名
ハ長調
C
♯♭なし
明るい、開放的、素朴、単純、純粋、本能的 真っ白・透明 モーツァルト:ピアノソナタ ハ長調
エリック・サティ:ジュ・トゥ・ヴ
ベートーヴェン:ソナタ21番「ワルトシュタイン」第1楽章、第3楽章
モーツァルト:交響曲41番「ジュピター」
ト長調
G
♯1個
雄大、自然、活発、元気、春っぽい 緑・空色 バッハ:主よ、人の望みの喜びよ
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 第1楽章
モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク第1楽章
ニ長調
D
♯2個
神聖、高尚、喜び、祝福 黄色っぽい エリック・サティ:ジムノペディ第1番
バッハ:G線上のアリア
パッヘルベル:カノン
ベートーヴェン:交響曲第9番 <合唱付き> 第4楽章
イ長調
A
♯3個
明るい、熱い、煌びやか、 赤・濃緑 モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調
ショパン:プレリュード7番
ドビュッシー:喜びの島
ベートーヴェン:交響曲第7番 第1楽章
ホ長調
E
♯4個
のどか、自然、軽快、輝かしい、美しい ピンク・薄い赤紫色 ショパン: 別れの曲
ドビュッシー:2つのアラベスク 第1番
ヴィヴァルディ: 四季「春」
ヘ長調
F
♭1個
平和、柔らかい、優しい、牧歌的 オレンジ・灰色 シューマン:子供の情景「トロイメライ」
ドビュッシー:夢
バッハ:イタリア協奏曲 第1楽章
ベートーヴェン:交響曲第6番 「田園」 第1楽章
変ホ長調
E♭
♭3個
英雄的、祝祭的、素直、輝き 水色・薄い緑色 ベートーヴェン:交響曲第3番 「英雄」第1楽章
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲「皇帝」
ショパン:ノクターン2番
変イ長調
A♭
♭4個
高級感、華麗、どことなく土俗的 スミレ色 ショパン:ポロネーズ 「英雄」
リスト:愛の夢第3番
ショパン:別れのワルツ
変ニ長調
D♭
♭5個
複雑さ、神秘的な美しさ 深い緑 ショパン:子犬のワルツ
ショパン:雨だれ
ドビュッシー:月の光
変ト長調
G♭
♭6個
不可思議 乳白色 シューベルト:即興曲op.90-3
ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女
ショパン:エチュード「黒鍵」

 

短調

短調は、調和した響きの中に、1音か2音ほど低い音が混ざります。

 

音にストレスを加えることで、暗い、悲しい、寂しいイメージになるのは不思議です。

 

日本人は、きれいに整った長調より少し傾いている短調の方が美しいと感じる傾向があります。

 

これは、ワビサビ的な美的感覚からきているのかもしれませんね。

 

調と調号 特徴・印象 色彩 曲名
イ短調
Am
♯♭なし
ストレートな陰り、柔らかい、素朴、単純 赤・深緑 ベートーヴェン:エリーゼのために
ショパン:エチュード「木枯らし」
ショパン:ワルツ3番
ホ短調
Em
♯1個
愁い、悲しい、美しい、悲観 緑・紫 ショパン:ピアノ協奏曲第1番
ショパン:プレリュード第4番
ナルシソ・イエペス:禁じられた遊び
嬰ハ短調
C#m
♯4個
幻想、落胆、泣き叫び、悲涙 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ「月光」 第1楽章
ショパン: 幻想即興曲
ショパン:ノクターン20番
二短調
Dm
♭1個
ドラマティック、不安、崇高 黄色・暗めオレンジ バッハ:トッカータとフーガ
ベートーヴェン:ピアノソナタ「テンペスト」第1楽章、第3楽章
ベートーヴェン:交響曲第9番 <合唱付き> 第1楽章
モーツァルト:幻想曲二短調
ト短調
Gm
♭2個
暗い響き、ダイナミック 皮の色ブラウン ショパン:バラード1番
モーツァルト:交響曲40番 第1楽章
バッハ:小フーガ
ハ短調
Cm
♭3個
悲劇的、強烈、怒り 黒・赤紫 ショパン:エチュード「革命」
ベートーヴェン:ソナタ「悲愴」第1楽章
ショパン:ノクターン13番
ベートーヴェン:交響曲第5番 「運命」第1楽章

 

使用例の少ない調

クラシック音楽ではほとんど使用されない調ですが、ピアノでは名曲が生まれています

 

調と調号 曲名
嬰へ長調
F#
♯6個
ショパン:舟歌
嬰ト短調
G#m
♯5個
リスト:ラ・カンパネラ
変ロ短調
B♭m
♭5個
ショパン :ピアノソナタ第2番 <葬送> 第3楽章

 

ピアノの調:まとめ

ここまで、調の必要性やピアノの調について解説してきました。

 

内容をおさらいしてみましょう。

 

ピアノの調

<調とは>

  • ポップスやジャズでは「キー」といい、カラオケでもおなじみ
  • 楽器によって得意な調がことなり、調は楽器の特性を引き出す重要な要素

<ピアノの得意な調は>

  • 白鍵だけで弾けるハ長調が基本の調
  • 指にとっては、黒鍵があった方が弾きやすい
  • ショパンは黒鍵だらけの曲を作曲している

<ピアノで調がわかるといい点>

  • 曲の表現の幅が広がる
  • 効率的に練習できる
  • 調がわからないときは「五度圏」が便利

<調の性格>

  • 調には性格があり色を感じる人もいる
  • ほとんど使用されない調の中にピアノの名曲もある

 

調について、少し親近感をもっていただけましたでしょうか。

 

ピアノを弾く時だけでなく、音楽を聴く時も少しだけ調を気にしてみてくださいね。

 

自分なりの調の性格や色をみつけると、音楽の世界が広がり、演奏がもっと楽しくなるでしょう

 

これからも、読者様の実りあるピアノライフを応援いたします。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。